うつ病の症状経過
うつ病とは
- うつ病とは、どんな病気か?
- うつ病ではどんな症状がみられるか?
- うつ病でみられる身体的な症状とは?
- うつ病の症状が社会生活におよぼす影響
- うつ病になるきっかけとは?
- どのような人が、うつ病になりやすいか?
- うつ病には誰でもなる可能性があるか?
- うつ病の原因として考えられていること
- どの位の人が、うつ病になるのか?
- うつ病を疑ったらどうしたらよいか?
- 家族や周囲が気づいた場合はどうしたらよいか?
- うつ病と自殺にはどのような関係があるか?
- うつ病にはどのような治療があるか?
- うつ病の一般的な治療の経過とは?
- うつ病の予防法とは?
うつ病とは、どんな病気か?
うつ病とは、心の活力が低下してしまい、いわゆる落ち込んだ状態が、ずっと続いてしまう病気です。「心の病」の中でも、気持ちや気分といった「感情」の病気で、血液検査やレントゲン画像などで見つけられるものとは異なりますので、専門医でないと見極めのむずかしい病気です。
うつ病ではどんな症状がみられるか?
うつ病でよくみられる症状としては、やる気・集中力の低下、心配事が頭から離れない、何をやっても楽しくなくなったり、生きていく自信がなくなったり、また、自分が悪いのではないか、自分は価値がないのではないか、と悲観的になってしまうこともあります。こうしたサインは、自覚できている場合もありますが、周囲の人が「いつもと違うのでは?」と気づいてあげることも大切です。
うつ病でみられる身体的な症状とは?
うつ病特有の症状が出る前に、不眠、体がだるい、頭が重い、胃腸症状といった身体的な症状となって現れることはよくあります。内科にかかっても「特に異常はありません」と言われるかもしれません。そこで、身体的な症状を自分の弱さのせいではないかと思い、ますます一生懸命やって、こじらせてしまいうつ病になってしまう方もいます。また、身体的症状のみで留まってしまう‘仮面うつ病’というものもあります。内科的症状を訴えるものの悪いところがない。辛そうだし、疲れているようだが、憂うつな感じはないというケースです。ただよく聞いてみると、食欲が無い、眠れないというような症状がかくれていることが多いです。不眠や食欲低下は身体的症状と精神的症状の中間に位置するものであり、早期発見においても重要な症状と言えます。
うつ病の症状が社会生活におよぼす影響
それまで遅刻をしなかった人がたびたび遅刻する、急に電話をかけてきて欠勤する、アルコールでトラブルを起こしたり、仕事でもミスが増えたり、家事もうまくできなくなるというようなことがあります。
うつ病になるきっかけとは?
会社でいうと異動や転勤、退職、家庭ですと引っ越しや出産などのイベントやストレスが発病のきっかけになる場合が多いです。昇進や結婚など周りから見ると幸せなことも、うつ病の引き金になることがあるので要注意です。また、最近では過重労働によるうつ病も増えており、社会問題となっています。
どのような人が、うつ病になりやすいか?
うつ病になりやすい方は、真面目で几帳面、責任感が強いという特徴があります。自分が頑張ることが人の役に立っている、会社の役に立っているという意識が支えになって充実感をもって仕事をしているわけです。このような方が、環境が変化して、責任が重くなったり、やるべきことが増えたりすると、自分で全て対応したいと思ってもやりきれなくなります。さらに周囲にまかせても自身が満足することは少ないので、欲求不満になり、充足感を求めて、ますます一生懸命働いて疲労困憊し、うつ状態になってしまうのです。社会にとっての‘いい性格’が裏目に出てしまうわけですが、そういう方は会社では特に昇進しやすく、‘昇進うつ病’になる可能性も高いわけです。最近話題となっている「新型うつ」と呼ばれる方が、自己中心的、他罰的、回避的といった特徴があるのとは対照的な性格と言えます。
うつ病には誰でもなる可能性があるか?
うつ病は誰でもなる可能性はあります。自分は精神的にタフだと思っている方もいますが、そのような自信家であっても、いったん心のコントロールがきかなくなると、病的に落ち込んでしまうことも多いのです。現代はストレスがあまりにも強いために、防御しきれないケースも見られます。たとえば人員削減によって、一人一人の負担が大きくなって、月に100時間前後もの残業していた方がうつ病になってしまうということもあります。仕事以外でも、子供がひとり立ちしたり、結婚して家を出てしまうと、役割がなくなってしまい、どのように生活をしたらよいか分からなくなってうつ病になってしまうということもあります。
うつ病の原因として考えられていること
現代医学でも、うつ病の原因ははっきりとはしていません。うつ病では、セロトニンやノルアドレナリンを増加させる薬剤である抗うつ薬が有効であることから、うつ病の患者様の脳ではセロトニンやノルアドレナリンが減少しているのではないかという考えがありました。しかしながら、抗うつ薬を投与して、すぐにセロトニンやノルアドレナリンが増加するにもかかわらず、効果がみられるまで2から4週間かかることから、単純にセロトニンやノルアドレナリンの減少がうつ病の原因とは考えられなくなっています。最も有力なのは、感情をコントロールする脳内のセロトニン神経系やノルアドレナリン神経系の機能(働き)が障害され、心の活力が低下してしまうという説です。そのような状態になる原因としては“ストレス”の影響が大きいと考えられます。
どの位の人が、うつ病になるのか?
日本では約6.5%の人が、一生のどこかの時点でうつ病になるのではないかと考えられています。15人に1人くらいが程度の差はありますが「うつ状態」になるという統計結果です。男女を比較すると、男性1に対して女性が2程度と、日本では女性のほうが倍くらいうつ病になる比率が高いといわれています。どうして女性のほうが比率が高いかは不明ですが、女性ホルモンが関係したり、出産、子育て、更年期などのライフイベントの影響も大きいのではないかと考えられています。
うつ病を疑ったらどうしたらよいか?
うつ病は精神の疾患なので、精神科で治療を受けるのが最適だと思います。うつ病の身体症状は、あくまでも随伴的な症状なので、内科的な治療ではよくなりません。うつ病が強く疑われるのであれば、最初から精神科を受診した方がよいと思います。心療内科やメンタルクリニックと標榜している場合もありますが、いずれにしても精神科の専門医にかかるのことをおすすめいたします。身体の不調が中心の場合は、うつ病かどうかの判断は難しいので、まずは身近であるかかりつけの医師への受診をおすすめします。通常は専門的治療が必要であれば、その段階で専門医を紹介してくれます。また、身体の不調が中心であっても内科的に問題ないと言われたり、内科的治療を受けたりしても症状が持続する場合も精神科医への受診をおすすめいたします。
また、病院に行くのは気がすすまないのであれば、会社の保健師さんや産業医に相談されてもよいでしょう。会社の人では抵抗があるという方は、市区町村の保健センターが精神保健相談を行なっていますから、そちらで相談してみてもよいと思います。
また症状が重く自殺をほのめかしている場合や食事などができなくなっている場合は入院設備のある病院を受診されることをおすすめいたします。
家族や周囲が気づいた場合はどうしたらよいか?
一般の方がうつ病かどうかを判断するのはむずかしいです。ですから、いきなり通院をすすめるのではなく、まず家族や上司、親しい方が、今までと違った所を具体的に本人に聞いてみることです。会社であれば、「仕事が滞っているようだけれど、何か心配事でもあるのか?」とか、「いつもの君らしくないんじゃないか」などと、具体的に聞いてあげます。悩みの内容が、何らかの手段で解決できるものであれば、健康の範囲内で起こっている気持の変化で病気ではありません。悩みを話すだけで楽になるということもありますから、まずはよく話をきいてあげることです。最初から「病気ではないか?」ということは言わない方が、本人も受け入れやすいと思います。
また、予防的には、一緒に飲みに行ったり、リフレッシュしたりするというのも大事な要素です。ただ、うつ病になってしまった後で、「お前ならできる」「元気ないけど酒でも飲めば治るよ」というような励ましをすると、逆効果になってしまうことが多いのです。ちょっと仕事で失敗して、一時的に落ち込んでいる方には、こうした激励は効果的であると思いますが、原因はよく分からないけれど、最近落ち込んでいる、という方にはやらない方がよいと思います。特にアルコールはうつ病をはじめ精神疾患の状態を悪化させますので避けるようにしてください。
うつ病というのはストレスがかかったあとに、すぐになる訳ではなく、ストレスに抵抗して頑張り続けているうちに、数ヶ月かけて徐々に発病していくのです。ですから、うつ病になった時には、もう頑張れなくなっているのです。昇進うつ病にしても、昇進直後からうつ病になるということはなく、数カ月してから症状が出ます。そうなる前に、頑張り過ぎていないかとか、緊張して無理をしていないかなどと、周囲が気にかけてあげることが大切だと思います。また、うつ病になると、症状のために自己の評価を否定的に考え、将来についても悲観的にとらえることから、退職などの重要な決断をしてしまうことがあります。回復したときに後悔しないように、このような時には、決断を先延ばしするようにさせることが重要です。
うつ病と自殺にはどのような関係があるか?
うつ病は心の風邪と表現されることもありますが、実際は自殺という症状によって死に至る病ともなります。心の肺炎くらいには考えるべき疾患です。うつ病になって自殺にいたる過程には主に二通りがあると思います。1つめとしては、自責感、罪責感が強くなった結果、「自分は生きるに値しない」と考え自殺に至る場合があります。2つめととしては、うつ病の症状によって仕事でもプライベートでも上手くいかずに辛さと焦りを感じて逃げ場を失い自殺する場合があります。いずれの場合も意識の幅が狭まり、考えが硬直した状態となっています。このようになった場合は、必ず誰か落ち着いて話せる方と話をしてください。たとえ自殺の考えが打ち明けられなくても、話をしているうちに気持ちが和らいだり、違った考えが見出すことができると思います。決して孤独にならないようにしてください。
うつ病の方では、程度の差はありますが自殺を考えている方は決して少なくないと思います。しかし、家庭や周囲に迷惑をかけられないと思いとどまっている方が多いのだと思います。家族や周囲の方が、普段から相談を受ける準備があることを患者様に伝えておかれることが自殺を予防する上で大切だと思います。
うつ病にはどのような治療があるか?
うつ病の治療はお薬と十分な休息です。薬は、一般に抗うつ薬といわれるもので、憂うつな気分を正常な状態に近付け、意欲を高め、不安やイライラを押さえるといった効用があります。現在の抗うつ薬はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬:デプロメール、ルボックス、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロ)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬:トレドミン、サインバルタ)が中心となっており、副作用も少なく、服用開始時の胃腸症状(吐気、胸やけ、下痢など)、眠気が主で、ほとんどの方が違和感なく服用できます。薬の効果がでるまで早くて2週間、ふつうですと4週間から6週間かかります。さらに再発を予防するためには、症状が改善されてからも6ヶ月から1年は服薬を継続して、良好な状態を固定させることが必要です。お薬を服用する際の注意点としては、抗うつ薬を急に中断すると、めまい・フワフワ感、吐き気、頭痛、不安感や焦り手足のシビレなど(離脱症状)が出現することがあります。また、頻度は低いのですが、抗うつ薬の服用を開始したばかりの時期に不安や焦燥、敵意や衝動性などが高まることがあります(Activation
Syndrome)。ミルタザピン(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬:リフレックス、レメロン)は、比較的新しいタイプの薬剤です。速やかに効果が出現し持続的であること、SSRIやSNRIと作用機序が異なることから、これまでの薬剤に効果を示さなかった患者様に対しても効果が期待されています。副作用としては眠気と体重増加が主に指摘されています。スルピリド(ドグマチールなど)も、元々胃薬だっただけに違和感も少なく効果の出現も比較的早いということから、初めて治療を受けられる方にはよく使用されます。効果が若干弱い印象があることと、副作用として食欲の亢進、女性では月経周期を乱すことがあり注意が必要です。スルピリドは、身体症状を中心としたうつ病、仮面うつ病に主に使用されます。特に胃腸症状や食欲低下がみられる方には優れた効果を示します。
うつ病の治療おいて薬物療法と並ん重要なのが休息です。休息を取ることによって心のエネルギーの回復が促進されます。薬の効果をより高めるためにも休息が必要です。ですから、なるべくストレスになる状況は避けて、十分な休養をとることが重要です。周囲の協力を得て仕事や家事をなるべく少なくして、平日の空いた時間や休日をなるべく休息にあてることが大切です。落ち着かず、何かしている方が気持ちが紛れると考える方もいますが、うつ病では気分転換ができないため、実際やってみると、かえって消耗する結果となります。「~しなければ」と思わないようにして、休息に徹するのが良いと思います。しかし、うつ病が回復してきたら、趣味や軽い運動を少しずつすることは、健康時の気分を思い出させて回復を促進します。しかし、回復している以上の負荷をかけないために、現在できると思うレベルの6割程度にとどめておく必要があります。
うつ病治療の中心は、あくまでも休息と薬物療法ですが、薬物療法の有効性が、それぞれの薬剤で50~60%程度と限界があることから、他の治療法を選択することが必要な場合があります。さらに、長い間、うつ病にかかっていると、それ程症状が重そうに見えなくても、抑うつ的な思考や行動パターンが定着している方も見受けられます。これらに効果が期待できる精神療法として認知療法があります。認知とは、出来事の捉え方、解釈の仕方です。認知療法は、人間の感情と行動が,まわりで起こる出来事を、その人がどのように認知するかによって変化するという考えに基づいた治療法です。治療者が援助して、歪んだ認知を患者様自身に気付いてもらい、それを検証してもらうことによって適応的なものに修正して感情や行動を変容させることを目標とします。また心理教育を行って、真面目で几帳面、完璧主義、責任感が強いといった社会的には‘いい性格’というのが逆に弱点になっていることを自覚してもらうことも大切です。もって生まれた性格というのはなかなか修正しにくいものですが、意識することによって、ずいぶん心構えがかわってくるものです。その上で、‘断り方’や‘頼み方’を練習、実践してもらうことは再発予防においても有効です。当院では、患者様の回復を第一と考えて、森田療法、認知療法、行動療法の要素を自由に取り入れた精神療法を行なっています(当院の精神療法および拙著「いつもの不安」を解消するためのお守りノート(永岡書店)をご参照ください)。
うつ病の一般的な治療の経過とは?
「こころの風邪」と呼ばれていた頃とイメージが異なるかもしれませんが、うつ病は症状の持続性と高い再発率から慢性的な疾患と考えるのが合理的と考えられるようになっています。初めてうつ病になられた方の場合は、きちんと治療することによって、早い方で3ヶ月、通常は半年から1年で回復する方がほとんどです。しかしながら、再発して2度目のエピソードを経験してしまうと、3度目も起きやすくなってしまう傾向があります。
再発予防はうつ病の治療において重要ですので症状がなくなったからといって、治療を勝手に中断してはいけません。再発予防で一番重要なのは、服薬を継続することです。症状が良くなってくると服薬や通院を自己判断で中断してしまい、再び症状が悪くなって来院される方が多く見られます。再発を予防するためには、症状が改善されてから少なくとも6ヶ月から1年は服薬を継続して、よい状態を固定させることが必要だと考えられています。2008年に発表された米国での調査では、初めてうつ病になられた患者様の15%が寛解に至らずに慢性化し、35%は再発していました。初めてうつ病になった方のうちで、その後も症状なく過ごせたのは50%のみでした。3回以上のうつ病のエピソードを経験された方では、治療を継続しない場合に再発する危険性が100%近くになっていました。これらを踏まえて、初回のエピソードの方には徹底的に治療を受けることを、複数回のエピソードを経験されている方や再発のリスクを避けたい方には抗うつ薬の長期間(年単位)の継続をおすすめします。現在、主に使用されている薬では、仕事や生活に支障が出ることは少ないので、十分な期間、服用することをおすすめいたします。
一方、うつ病の回復は三寒四温といって、波をうって回復していきますので、一日一日の症状の変化にとらわれないことが大切です。2週間単位くらいで考えていくのが良いと思います。さらに、うつ病の各症状は、同時に回復していかないという性質があります。最初は、いらいら感、不安感、憂うつ感から軽快し、つぎに興味や関心、最後に億劫感などの意欲が回復していきます。とにかく、焦らないことが重要です。最後に周囲の方も含めて注意していただきたいのは、症状がよくなりはじめた時に自殺を考える患者さんが多いということです。患者様もあせらず、周囲の方もゆっくりと休養できる環境を整えてあげることが大切です。
うつ病の予防法とは?
生きている以上、何らかのストレスはあります。ストレスはうつ病になったり生活習慣病をおこしたりと、マイナス面もありますが、その人が成長していく過程で、人間形成に果たす役割りもあります。ですからストレスに上手に対応することが必要だと思います。
ストレスを過剰に受けないために、日頃から周囲とコミュニケーションをとり、必要に応じてサポートをもとめるということも重要です。また仕事や家庭など、ひとつのことに集中しないことも大切です。仕事と家庭、友人関係とか趣味など、いくつかの「居場所」を作っておくことが必要だと思います。一つが上手く行かずストレスに潰されそうになっても他の部分で支えられる体制を強化しておくことです。また「ストレス解消」も大切です。「気分転換」と言い換えてもよいですが、何か気持ちを切り替えられる要素をもっているとよいと思います。趣味のようなもので、何か没頭できるものを一つか二つもたれるのがよいと思います。逆に言いますと、うつ病になると気分が沈んだままで、気分転換は出来なくなってしまいます。ですから、気分転換出来ているうちは安心ですし、それがうつ病の予防ということにもなります。バネののびきった状態のように、精神的な緊張がずっと続いているとうつ病になってしまいます。バネが戻らなくなってしまうわけです。それをなるべく早く戻してあげることが必要なわけで、それが気分転換ということになります。