冬季うつの症状経過
季節性感情障害(冬季うつ)とは
- 冬季うつとは、どんな病気か?
- 冬季うつではどんな症状がみられるか?
- 原因としてはどのようなことが考えられているか?
- どのような人が冬季うつになりやすいか?
- どの位の人が冬季うつになるのか?
- 冬季うつになるきっかけとは?
- 症状が社会生活におよぼす影響
- 冬季うつを疑ったらどうしたらよいか?
- 冬季うつにはどのような治療があるか?
冬季うつとは、どんな病気か?
冬季うつとは、秋から冬(9月から3月)頃になるときまって気分が落ち込んでしまう疾患です。明確なうつ状態がみられるものを 「冬季うつ病」、比較的、軽度のものを一般的に「ウィンターブルー」と呼んだりします。多くは秋から冬にかけてうつ状態が現れ、春から夏になると回復するというパターンを繰り返します。なかには、春から夏にかけてかえって気分が高揚し、冬のうつ状態と夏の躁状態を繰り返すタイプもあります。古くから人間の気分は季節に影響を受けると言われてきましたが、1980年代になり季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder)として医学的に認知されるようになりました。しかし国際的診断基準であるDSM-5では、今でも独立した疾患とはされず反復性うつ病・双極性障害の季節型に分類されています。 (夏にうつ状態が現れる季節性感情障害もありますがまれです。)
冬季うつではどんな症状がみられるか?
症状の多くは一般的なうつ病と共通していますが、冬季うつの症状には二つの特徴があります。一つ目は症状の現れ方に季節性がみられるということです。秋頃からうつ状態となり春になると自然に回復するという特徴があります。自然な季節変化のみに影響されていることが重要で、冬季の心理的イベント(例えばストレスとなる年末の多忙や義理の実家への帰省など)が明らかに影響している場合は冬季うつとは言えません。二つ目の特徴は、一般的なうつ病と比較して、うつ症状に異なる傾向がある点です。気持ちの落ち込みよりも意欲の低下が目立ち、不眠よりも過眠、食欲低下・体重減少よりも過食・体重増加が顕著です。倦怠感や頭の回転の悪さを強く自覚し、夜間の睡眠が長くなるばかりでなく、日中にも眠気が現れます。食欲も亢進して特に午後から夜にかけて白米、パン、麺類などの炭水化物を無性に食べたくなります(炭水化物飢餓)。ちょうど哺乳類が冬眠に向かうイメージです。
原因としてはどのようなことが考えられているか?
冬季うつの原因としては日照(積算光量:照度X日照時間)不足が考えられています。日照が少なくなる冬期に現れること、冬季うつの有病率が高緯度地域ほど多い(日照時間に逆相関)こと、さらに強い光を一定の時間浴びる高照度光療法が治療として有効であることから、日照不足が原因と考えられているのです。この日照不足により、気分に関係するセロトニン神経系機能に異常をきたすことや概日リズムという体内時計の乱れが引き起こされることが発症に関係しているのではないかと考えられています。
どのような人が冬季うつになりやすいか?
冬季うつは20歳代前半に多く、女性は男性より4倍かかりやすいといわれています。また、日照時間が短い地域ほど冬季うつのリスクが高まると考えられています。
どの位の人が冬季うつになるのか?
欧米では1%~10%の人の有病率と報告されています。日本で行われた調査では一般人口の約2%に冬季うつが疑われました。また、有病率には地域差があり、冬季の日照が極端に少ない北欧などの高緯度地域では高頻度でみられます。
冬季うつになるきっかけとは?
季節変化によって日照不足になることがきっかけになります。特に高緯度地域では、冬季に極端に日照時間が短くなるので注意が必要です。最近は、コロナ禍での自粛や在宅ワークにより外出が減り、日に当たる機会が減っていることにも注意を払う必要があると考えます。
症状が社会生活におよぼす影響
冬季うつになると、倦怠感の強さや眠気から生活が不活発になります。そのような状況で過食することが体重増加につながり活動性の低下に拍車をかけます。こうして外出時間が短くなり日に当たる時間も少なくなることで、冬季うつが悪化するという悪循環が生じます。この悪循環によってうつ状態から回復する機会を失い、活動範囲が狭くなって、仕事、家庭、学校などの社会生活に支障が生じます。
冬季うつを疑ったらどうしたらよいか?
冬になると、程度の差はあれ多くの人で、倦怠感、睡眠時間の増加、体重の増加など体調に変化が現れる傾向があります。しかし、こうした変化によって仕事や学校などの社会生活に支障が現れたら注意が必要です。
幸い冬季うつは自分でできる対策があり、軽度のものであれば回復が期待できます。まずは、できるだけ屋外に出て日光を浴びるようにしましょう。回復のためには2500から10000ルクスの照度が必要です。室内照明は1000ルクス弱で、十分ではありません。一方、屋外光であれば曇り空でも10000ルクスあるので十分に足ります。可能であれば朝に1時間程度は浴びるようにしてください。散歩などの運動を組み合わせるとより効果的です。
また、セロトニンの原料であるトリプトファンが不足しないように注意していください。トリプトファンは体内で合成できない必須アミノ酸なので、トリプトファンを多く含む乳製品や大豆製品などを積極的に摂られるのが良いでしょう。他にセロトニンの合成に影響を与えるビタミンDの摂取も大切です。ビタミンDは魚などに多く含まれますが、日光を浴びる(紫外線が含まれる光が皮膚にあたる)ことによって体内で合成もできます。この点からも屋外の散歩は有効といえます。
さらに冬場の良い点を意識することも大切です。症状が強くなる前にクリスマス、スノーボード、スキー、温泉などの計画を立てるのも良いと思います。また、「春になれば自然に楽になる」ということも忘れないでください。
冬季うつにはどのような治療があるか?
冬季うつは春になれば通常は自然に回復するので、それまでの対処が重要となります。冬季うつの原因としては日照不足によるセロトニン神経機能の異常と体内時計の乱れが考えられています。したがって、日照不足を補うことが治療において重要となります。そのため、治療の第一選択は高照度光療法となります。2500から10000ルクスの光を1から2時間程度浴びるというものです。照度が高いほど短時間で良いとされています。ライトボックスという明るい光を放つ機械を用いて、体内時計を整えるために朝に光を浴びるのが一般的です。高照度光療法は健康保険が適応されず、ライトボックスも医療機関での貸し出しはしていませんが、ECサイトなどで同様のものが購入できます。効果は1週間程度と比較的早く現れますが、中断すると再発することが多いので冬の間は毎日行った方が良いと思います。外出できるようになれば、代わりに外の光浴びながら朝に散歩するのもよいでしょう。
うつ症状が強かったり、高照度光療法で十分に効果が出ない場合は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬:デプロメール、ルボックス、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロ)などの抗うつ薬を使用し、症状が回復する春ごろまでSSRIを継続します。冬季うつではうつ状態と躁状態を繰り返す双極性障害のタイプもあるため、春になったら躁状態に移行することがないよう、減量や中止を行います。
また冬季うつになると、冬季に辛いうつ状態を繰り返してしまうため、冬について「楽しいことなどない」「心身ともにつらいことばかり」などネガティブなイメージを持っていることが少なくありません。このことが冬季うつの症状の悪化や再燃に関与していると考えられることから、そのイメージを修正する認知行動療法的なアプローチも大切です。リラクゼーション法や気分転換でつらいイメージから距離をとるようにし、同時に冬の楽しいイベント(クリスマス、スノーボード、スキー、温泉、鍋、イルミネーション)を少しずつ体験し、冬のネガティブなイメージを修正するようにしていきます。認知行動療法は再発予防にも有効であるとも言われています。当院では、患者様の回復を第一と考えて、森田療法、認知療法、行動療法の要素を自由に取り入れた精神療法を行なっています。当院の精神療法については、拙著「とらわれ」「適応障害」から自由になる本(さくら舎)、「いつもの不安」を解消するためのお守りノート(永岡書店)をご参照ください。
なお、冬季うつの長期経過について詳細なデータはありませんが、多くの場合、低緯度地域への転居などをしない限り、毎年同じ頃にうつ状態になるおそれが大きいと考えます。加齢とともに軽症化し自然に治るケースもありますが、冬季以外にもうつ状態が現れて、季節性が目立たなくなり、通常の反復性うつ病や双極性障害に移行することもあります。