産業医のご案内
○ 産業医とは
労働安全衛生法により50名以上の労働者を雇用している会社(事業所)は支店であっても事業所ごとに産業医を選任することが定められています。会社は労働者に業務を命ずることができる一方で安全や健康を損なわずに働けるよう配慮しなければいけません(安全配慮義務)。この安全配慮義務を遂行するために、会社には健康診断によって健康状態を確認した上で、業務により労働者の健康が害されることがないよう業務内容や労働環境を管理することがもとめられています。これらの労働者の健康管理について医師の立場から指導・助言をするのが産業医です。
最近は産業医の業務において「職場のストレスと労働者の心の健康」が主要なテーマとなっており、当院へのお問い合わせも増えております。精神科産業医に重要な役割が求められるなか、ストレスケアを重視している当院として、これまで以上に積極的に産業医活動に取り組むべきであると考えました。日本橋近隣の企業で働いている皆様に、産業医としてお役に立てればと思っております。お気軽にご相談していただければ幸いです。まずはメールまたは電話(03-5614-7087)にてお問い合わせをお願いいたします。
○ 精神科産業医の役割
人形町メンタルクリニックは、平成16年の開院以来、職場のメンタルヘルスに取り組んできました。院長は、第一生命保険相互会社(現、第一生命保険株式会社)本社日比谷診療所の精神衛生担当医として、また他の企業の産業医や嘱託医として、職場のメンタルヘルス不調者への対応、管理者教育、メンタル不調者と職場とのトラブルの解決において実績を上げてきました。また現在は行政官庁においてメンタルヘルス対応の研修、相談に尽力しております。
(1) 精神科産業医に求められるもの
以前は産業医に求められるものは多くなく、極端な場合は「名ばかり産業医」という無責任で違法な状況もありました。現在では月に1回の職場巡視は当然のこととなり、復職時の面談、長時間労働者への面談、ストレスチェックの事後措置のための面談など、産業医の責任と業務範囲が拡大しております。しかしながら労働者の健康を増進するために産業医の役割を増やしても、実際は今でも新入社員は早々と退職し、最前線の優秀な労働者は心を病んで休職していきます。また労災の申請件数が増加傾向にあることからみても、労働者の健康が向上しているとは言えません。この理由としては、産業医が上記の面談を行う時には、既に何らかの不調を労働者が抱えしまっていることが考えられます。いくら就業措置(二次予防・三次予防)をしても病気になってからでは限界があるのです。
そこで当院では労働者の方々が不調になる前に、産業医が積極的に対応することが重要だと考えました。労働者がストレスを自覚した段階で面談を行って対処方法(セルフケア)を指導し、また上司の方々からも早めに相談を受けて職場環境の調整(ラインケア)について助言をしていくのです(一次予防)。このことが本来精神科産業医に求められていることだと思っております。メンタルヘルスの専門家が早い段階でかかわることによって職場を健康的に保つことが可能となります。健康的な職場で、やり甲斐、仲間意識、会社への信頼が醸成されることこそが、会社が産業医契約をする意義ではないでしょうか。
(2) 職場のトラブル解決について
精神科産業医に求められる業務としては、これまではメンタルヘルス不調者の休職や復職の判断が中心でしたが、最近ではメンタル不調者と職場とのトラブル解決が増えてきております。
このようなトラブルは主に二つに分けられます。一つ目はメンタルヘルス不調者の症状にもとづくトラブルです。作業能力の低下、出勤不安定、長期休職、攻撃的あるいは妄想的言動、対人的トラブルなどがあります。二つ目は就業上の配慮に関する問題です。メンタルヘルス不調者が業務を行う上で、職場が行う配慮が適切であるかどうかの問題です。
これらのトラブルは一筋縄ではいかないものが多く、適切に対応するためには職員の病状を正しく評価をすることが不可欠となります。そのため精神科的診断、治療についての高度な理解がどうしても産業医に必要となるのです。誤った判断は、トラブルの増大や病状の悪化など、企業、職員の双方のリスクにつながってしまうからです。
職場がメンタルヘルス問題に不慣れな場合に起こりがちな誤った対応には主に以下の三つがあります。一つ目はメンタルヘルス不調者である本人を腫れものに触るように扱い、過剰に負担が軽い仕事を与え続けることです。企業にとって戦力にならず、周囲の職員のモチベーションは低下、何よりも本人が「必要とされていない」と悩むことになります。本人のために良かれと思ってした配慮が、本人にとって良いとは限らないのです。二つ目は本人が求める通りに対応してしまうことです。例えば本人が望む通りに、労働時間や出勤時間を調節したり業務内容を変えたりすることは、必ずしも本人の回復にとって有益とは限りません。かえって問題の先送りや深刻化につながることもあります。三つ目はトラブルの解決を治療者である精神科の主治医に委ねてしまうことです。主治医はあくまでも患者である職員の利益を第一に考えて対応しますので、主治医が提案する対応策が職場にとって受け入れ難いことも多々あります。適切な妥協点を見いだせずにいると、結果的に主治医の対応策を鵜呑みにしたり、反対に拒否したりするという極端な対応となり、さらにトラブルを深刻化させてしまうのです。
これらのことは職場としてどのような配慮をどの程度まで行うべきかが分からないことに起因しています。職場は合理的な範囲であれば、均等な機会や待遇を確保するため(障害者雇用促進法)や、安全配慮義務の遂行のために必要な配慮の求めに応じなければなりません。この合理性の判断には病気の診断や障害の程度の把握が不可欠であり、職場のメンタルヘルスを良く理解した精神科産業医でなければ困難と考えます。
もし職場と主治医で意見の相違があった時、主治医が職場のメンタルヘルスに詳しい精神科医であり、一方職場の産業医がメンタルヘルス対応に不慣れな場合は、双方の間にリテラシーの格差が生じます。元々職員の病状の理解については定期的に診察している主治医を超えることは困難であり、法制上も職員の方が有利なので争っても太刀打ちできないのが現実でしょう。メンタル不調者への対応を考える上で、産業医が主治医より優っている点は、職場のことをよく理解していることです。しかし実際はこの点についても心もとない場合があることはメンタルヘルスを扱う管理部門の方であればお気づきのはずです。
当院としては、これらの問題を未然に防ぐことが精神科産業医の役割と考えております。これまで培った経験やノウハウを契約先の企業の皆様に提供することで、今ある様々なメンタルヘルスの問題の解決をお手伝いし、企業や職員の皆様にとって安心できる職場環境づくりをサポートしていきたいと考えております。
○ 産業医・顧問医契約について
企業や官庁の精神科産業医・嘱託医などとして、多くのメンタルヘルス問題に対応した経験を生かして、職場が抱えるメンタルヘルスに関する様々な問題への解決策をご提案したいと思っています。
当院との契約形態には、産業医契約と顧問医契約があります。産業保健活動は会社のことを良く知った上で行うべきという当院の考えから、必要な時だけのいわゆるスポット契約は行っておりません。また契約だけで殆ど訪問しない名ばかりの産業医契約も、お互いのリスクおよび会社のお役にも立てないため行いません。
業務については、産業医契約では労働安全衛生法に定められた業務を月に1回事業所を訪問して行います。この業務の中には復職面談、長時間労働面談、ストレスチェック後の高ストレス者面談等も含まれます。産業医は当院に限らず労働者の治療を中立性を守るために行えませんが、治療が必要な場合は当院から他の医療機関を紹介いたします。顧問医契約はすでに産業医が選任されている事業所や選任の義務が無い小規模の事業所を対象とした契約となります。法律で定められた契約ではないため内容は割合自由に決められます。例えば職場からの相談や労働者の速やかな受診を契約したり、既に選任されている産業医がメンタルヘルスが専門でない場合に長時間労働面談やストレスチェック後の高ストレス者面談などを契約する場合があります。どちらの契約においても、一貫した職場対応が大切であるとの考えからメールや電話の相談についても産業医が責任を持って応じます。
報酬については産業医契約の場合は、事業所の規模、主とする業務、健康管理部門の組織(保健師、看護師がいるかなど)、現在抱えている問題の程度などによって決まります。また顧問医契約ついても、長時間労働面談、高ストレス者面談、復職面談などそれぞれ難易度が異なることから内容により報酬も変わります。それぞれの契約について状況に応じたプランを提案いたします。産業医契約の目安としては日本橋医師会産業医報酬基準額についてをご参照ください。詳細についてお気軽にご相談していただければ幸いです。産業医、顧問医に関するご依頼や相談はメールまたは電話(03-5614-7087)にてお問い合わせをお願いいたします。
○ ストレスチェック制度
平成27年12月1日に労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」が施行されました。その中で主に使用される「職業性ストレス簡易調査票」は心理テストというよりもアンケートに近いものです。つまり「仕事は大変ですか?」「心身の不調はありますか?」「だれか助けてくれますか?」と3つの質問をしているのです。単純なチェックであり、チェックされる側の意図が明確に反映された結果となります。従って高ストレス者の面接は、すでにストレス、心身の不調や職場の問題点を自覚されている方が対象となり、内容は多岐にわたると考えられます。労働時間によって対象者が選定される過重労働面談と比較してより高度かつ専門的なストレスケアに関する面談技術が産業医に要求されます。
高ストレス者の面談では、まずはストレス反応の程度と病気になっていないかを診断し、その上で就業が可能かどうかを判断して就業上の配慮を決定していきます。適切な就業上の配慮を行うためには、労働者がどのレベルまでストレスの影響を受けているかを適正に診断しなければなりません。例えば「気持ちが落ち込みます」との訴えがあった場合には、それが通常感じる程度の落ち込みなのか、適応障害やうつ病などの精神疾患によるものなのかを鑑別する必要があります
(うつ状態の鑑別:詳細はクリック)。実際にこれらを鑑別することは容易ではありませんが、病気を見落とすことは許されないため、産業医には精神疾患に対する十分な経験と診断能力が要求されます。
この精神科的診断能力を補うために、高ストレス者の面談のみを外部の精神科医に依頼する場合にも問題があります。たとえストレスの影響度を診断できたとしても、産業医、顧問医以外の医師は職場の状況をよく知らないため就業の可否や就業上の配慮を1回の面接で判断することは困難です。このことは判断の妥当性に疑問の余地を残しトラブルの原因になるおそれがあります。過重労働面談、復職面談などについても同様なことが言えます。そもそも会社や労働者にとって重要なテーマである就業上の措置について産業医が意見が言えるのは、会社のことをよく知っているという前提があるからです。当院はストレスケアの専門家としてこれらの解決策を提案していきたいと考えております。