パニック障害

(Panic Disorder with Agoraphobia)

心療内科・精神科
東京都中央区日本橋人形町1-1-21人形町ビル3F


パニック障害の症状経過

パニック障害の説明図

パニック障害とは


パニック障害とは、どんな病気か?

 人は、例えば災害や事故などの緊急事態に巻き込まれた際に、その脅威に立ち向かうために、過覚醒状態となり緊張し、酸素を十分に取り込むため過呼吸となり、身体のスミズミまでに血液を送るために心臓は激しく鼓動を打ちます。脅威に直面した時に、このように急激に交感神経が活発になるのは人間の生理的な不安反応(パニック)であり、正常なものです。この不安反応(パニック)が、特に脅威にさらされていない時でも生じてしまうのがパニック障害です。

パニック障害ではどんな症状がみられるか?

 パニック障害になると、突然、激しい動悸、息苦しさ、吐き気、めまい、発汗などに襲われます。過覚醒によって不安・緊張が生じ、このような事態に対し、「死んでしまうのではないか」という恐怖感が出現します(パニック発作)。その後、パニック発作が「また起こるのではないか」と常に不安となります(予期不安)。その結果、すぐに出られない場所、助けをもとめられない場所、パニック発作を経験した場所(電車・飛行機などの乗り物、渋滞・高速道路の車、映画館、混みあった飲食店)に行くのが怖くなって避けたくなります(広場恐怖:回避行動)。

パニック障害の症状が社会生活におよぼす影響

 パニック障害になると、すぐに出られない場所、助けをもとめられない場所、パニック発作を経験した場所(電車・飛行機などの乗り物、渋滞・高速道路の車、映画館、混みあった飲食店)に行くのが怖くなって避けたくなります。その場所は拡大していく傾向にあるため、活動範囲が徐々に狭くなり、仕事、学校や家庭などの社会生活に支障が生じます。

どのような人がパニック障害になりやすいか?

 パニック障害に特異的な性格傾向というものは見い出されていません。不安障害に共通して、神経質傾向(不安になりやすい傾向)が強い方がなりやすいとされています。また遺伝的要因もあると考えられています。

パニック障害になるきっかけとは?

 パニック発作は予期せずに突然生じたように感じることが一般的ですが、実際には発作に先立って別れや喪失などのストレスとなる出来事を経験している方が多いとされています。

パニック障害の原因として考えられていること

 パニック障害には、脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリン、セロトニン、GABA(γ-アミノ酪酸)が関係していると考えられています。脳内の部位としては、パニック発作には青斑核が、予期不安には大脳辺縁系が、回避行動には前頭前野が関与している可能性が指摘されています。

どの位の人がパニック障害になるのか?

 1.5%~3.5%の人が、一生のどこかの時点でパニック障害になるのではないかと考えられています。20代で発症することが多く、女性は男性の2倍から3倍発症しやすいとされています。

パニック障害を疑ったらどうしたらよいか?

 パニック障害のほとんどの患者様は、呼吸苦や動悸などのために一般内科を受診されることが多いと思います。身体的に異常が認められなければ、早期に心療内科や精神科の専門医を受診することをおすすめします。パニック発作を繰り返しているうちに、予期不安から避けたい場所が増えることにより徐々に生活範囲が狭まってしまいますし、うつ病の合併が40%~80%の患者様にみられるからです。
 パニック発作がどんなに激しくても、決して身体がおかしくなったり、気が狂ったりすることはありません。通常は、治療によって劇的に改善しますし、早期に治療するほどよりよい経過となりますので早期に受診してください。
 嗜好品についても注意が必要です。コーヒーなどに含まれるカフェイン、タバコに含まれるニコチンの過剰摂取は症状を悪化させるので控えるべきですし、不安や恐怖をやわらげるためアルコールを飲むことは、翌日にかえって不安や恐怖を高めるリバウンドを引き起こしたり、アルコール依存症の合併につながるため注意すべきです。
 また、パニック障害とよく似た症状が甲状腺機能障害でも現れることがあるので、血液検査などで調べておく必要もあります。

家族や周囲が気づいた場合はどうしたらよいか?

 患者様は、突然のパニック発作が、「また起こるのではないか」と常に不安でいます。内科などを受診して、身体的な検査によって原因がわからなければ、より混乱しているでしょう。ご家族や周囲の方は、まずはご本人の訴えをよく聞いてあげ、パニック障害が疑われたら、心療内科や精神科の受診をおすすめください。
 その際には、パニック発作がどんなに激しくても、決して身体がおかしくなったり、気が狂ったりすることはないこと、有効な治療法があることをよく説明してあげてください。また、パニック発作への恐怖から回避したい場所があるのは無理もないことだと理解を示してあげてください。ただし、回避を助長するようなサポート(常に一緒にいてあげる、外出をさせないなど)は、かえって患者様の克服力を減弱させてしまうため注意が必要です。

パニック障害にはどのような治療があるか?

 パニック障害治療の中心は、薬物療法と精神療法の一つである認知行動療法です。薬物療法としては、以前は三環系抗うつ薬が使用されてきましたが、最近はより副作用が少ないSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬:デプロメール、ルボックス、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロ)が中心となっております。副作用は、服用開始時の胃腸症状(吐気、胸やけ、下痢など)、眠気が主で、ほとんどの方が違和感なく服用できるため長期間でも安心して服用できます。また、ベンゾジアゼピン系薬物(ソラナックス、デパス、ワイパックス、レキソタンなど)を主とする抗不安薬も、即効性があるため使用されますが、対症療法であり、依存性の問題もあるため、SSRIの効果がでるまでにとどめたほうが良いと思います。SSRIや三環系抗うつ薬の効果が現れるまでには、早くて2週間、通常は4週間かかります。また効果が現れて症状がなくなっても、その時点から、さらに6ヶ月から1年間は再発を予防するためにも服薬を継続することが必要です。その他、高血圧症の治療薬のひとつであるβブロッカー(インデラル、テノーミン、アルマールなど)は、不安状態に伴う交感神経系の興奮による自律神経症状(動悸、ふるえなど)を対症療法的に緩和させる薬剤です。速効性があり、習慣性もありませんが、合併する身体疾患(気管支喘息、心不全など)の悪化に注意する必要があります。
 SSRIを中心とした薬物療法はパニック発作の抑制に優れた効果を発揮しますが、パニック発作が抑制されても回避症状が長期に残存することがあります。回避症状には、認知行動療法が特に有効と考えられています。認知行動療法は、環境刺激であるストレスとその反応である感情・認知(思考)・身体(自律神経)・行動の変化との相互作用を検討して、精神障害、ストレス反応において生じている悪循環を断つことにより、症状の改善や問題の解決を図ろうとする治療法です。人間の反応の中で、感情(恐怖、不安、緊張など)や身体(動悸、呼吸苦、吐き気、めまいなど)の反応は、症状の中心ではありますが、意識的にコントロールすることが困難です。認知行動療法は、意識的にコントロール可能な認知と行動に働きかけて修正することにより、患者様がおかれている悪循環を断つことによって、感情や身体の反応を含めた症状を相互作用的に改善しようとするものです。パニック障害の認知行動療法では、不安や恐怖を引き起こす刺激(閉鎖的な場所、身体感覚など)に段階的に直面(曝露)させていき慣れさせて回避を軽減させる‘段階的曝露療法’が中心に行われます。その準備として、パニック発作時に過呼吸による症状の悪化を防ぐために呼吸を制御する‘呼吸訓練’、不安症状を中和するために行なう‘リラクゼーション訓練’が行われます。さらに、不安や恐怖のもとにある「パニック発作が破滅的な重大な結果を招く」という誤った不適応的な考えを見つけて、客観的に否定して適切な考えに置き換える‘認知再構成’が組み合わされて行なわれます。特に認知行動療法は不安や恐怖に直面することがもとめられるため、患者様には高いモチベーションが必要となります。当院では、患者様の回復を第一と考えて、森田療法、認知療法、行動療法の要素を自由に取り入れた精神療法を行なっています(当院の精神療法および拙著「とらわれ」「適応障害」から自由になる本(さくら舎)、「いつもの不安」を解消するためのお守りノート(永岡書店)をご参照ください)。